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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で 第1章「小さなシアワセと小さなウソ」2

続き

山道を降りると、そこは立木観音の山門のほぼ反対側だった。ちょっとした住宅地。そこから駐車場までは結構な距離がある。歩いて20〜30分といったところ。

初日からこんなデートを楽しんでもらえているのだろうか。沙亜子と自分との相性が悪いわけではない、むしろ抜群に良い気はしている。だけど、この状況はなかなかに過酷だ。700段の階段を登り、さらに駐車場から遠く離れた場所への下山。これはちょっとした登山。ピクニックってレベルではない。

だけど、宗司の心配をよそに、終始、沙亜子は楽しそうだった。気がかりは杞憂だが、初日は大切だと思う宗司にとっては、やはり気がかりではあった。

住宅地を抜けると、先ほど車で走った道路へ出た。ここからまだしばらく道は続く。しかも、山沿いの道に歩道はない。平日で交通量は少ないとは言え、なかなかに危険な道のりだった。

幸い、近江神宮以降雪が降る様子もなく、天候は晴れ。寒いながらに心地よい風が吹く、そんな日だった。

しばらく歩くと、自販機があったので、宗司はそこで飲み物を買うことにした。買おうとしたら、沙亜子がごちそうしてくれた。男が出すってのは定石だけど、これはこれで嬉しいものだ。

その後、工事の関係で道を渡った。そこは瀬田川の土手沿い。2人は、土手に登り、そこでしばし休憩することにした。

土手に腰を下ろすと、これまで見たこともないようなパノラマな景色が2人の前に広がっていた。

360度見渡せる蒼い空。緩やかに流れる真っ白い雲。包み込むように吹き過ぎる柔らかな風。陽の光を浴びてキラキラと輝く碧い川。じっと見つめるようにただそこにある雄大な山々。

そのどれもが、美しかった。

そんな感動を分かち合いながらも、少しだけ距離を空けて座ることが宗司はちょっぴり寂しかった。手を離したときと同様の寂しさを感じていた。沙亜子も同じように感じているのだろうか。ほんの少しのこの距離が、今の2人の関係の距離なのだとしたら、それはそんなに遠くはないのだけれど。

2人は他愛もない話をしながら、その景色に包まれていた。

そんな時、宗司は、ふとこの後実家で母が営むカフェに行くことを思い出した。初日だけれど、沙亜子が母と会う。

宗司「今日、沙亜子さんと会うこと、家族に言ってるんですけど、Youtubeの視聴者さんと会うって言ってあるんですよね」

宗司は、出会系アプリで知り合った女性と会うことが言えなかった。アプリでの出会いへの後ろめたさなどはないのだけれど、別れた元妻との出会いもインターネットを介してだったことが気がかりで、どうでもいい嘘をついてしまったのだ。

そう告げた瞬間、これまで穏やかだった場所に、強い風が吹いた。

沙亜子は「アプリで出会ったって言えばいいのに」と答えたが、宗司には、そこまでの理由は言えなかった。ただ、風が吹いたことに気付いた宗司は『あぁ、しょうもない嘘ついたから、なんか空気変わったな』と気付くでもなく感じていた。

沙亜子「行きましょうか」

沙亜子がそう言って、2人は土手を降りた。自分の軽はずみな嘘に、沙亜子も傷ついただろうか。宗司は少し後ろめたい気持ちを感じながら、歩道のない車道で沙亜子の後ろを歩いた。

小さな幸せの中で小さな嘘をついてしまったことは、プラマイゼロにはならないだろう。

しょうもない嘘をついたことを後悔したが、宗司は考えることをやめた。今の自分には必要な嘘だったのだ。不要な心配を親にさせたくないと考えてのことだからと、宗司は納得することにした。

小さな嘘が、本当の自分を隠していることに、このときの宗司は気付く由もなかった。続く〜。

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