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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で 第1章「小さなシアワセと小さなウソ」1

澄み渡る青空の下、沙亜子の車まで宗司は歩いた。本当は駆け寄りたかったけれど、なんだか早く会いたかったことを悟られるみたいで、宗司はゆっくりと歩いていった。

助手席の窓から覗き込み、ドアノブにてをかけた。初対面である。ワクワクとドキドキを抑え、宗司は平静を装いながら、ドアを開けた。

「はじめまして」宗司はなんだか照れくさかった。だけど、それ以上に嬉しかった。

LINEと写真でしか知らなかった沙亜子が今目の前にいる。写真で見たとおり、キレイで笑顔が可愛い女性だった。沙亜子の声は、とても優しく、宗司の胸に響いた。

お互い照れのある中、沙亜子の運転で、2人は近江神宮へ向かった。

参拝を終えた2人が階段を降りると、広がる青空から雪が舞い落ちた。とても不思議な光景だった。2人は舞い落ちる雪を見ながら、駐車場へ向かった。

宗司「次行くとこなんですけど、700段の階段のある立木観音ってとこでもいいですか?悪縁を断ち切るって有名なお寺なんですけど」
沙亜子「え、そこ行きたいです」

ということで、2人は700段の階段に挑むことにした。

宗司は、立木観音に一度挑んだことがあった。その時は、途中まで登ったところで、突然の夕立に遭い、断念を余儀なくされた。

だけど、今回は寒いとは言え、最高の天候。青空にも恵まれ、寒いとは言え、日の当たる間は暖かい。700段の階段を登りきれるかだけが、不安だが、沙亜子と挑むなら登りきれるだろう。

階段は、長かった。途中休憩をはさみながら、2人は息を切らしながら、700段の階段を確実に頂上まで向かって登った。

ようやく見えた頂上は、まだ遠い気がしたが、なんとかたどり着いた。

参拝をしていると、お坊さんがお経をあげはじめた。銅鑼と般若心経だけが木霊する世界は、宗司にとってとても不思議な感覚だった。

しばらくして、2人は奥の院へと足を運び、下山することにした。トイレによった後、宗司は旧参道の看板を見つけた。

宗司「なんかこっちに旧参道があるみたいですけど、こっちから行ってみますか?」

2人は、旧参道を歩いて下山することにした。旧参道は、駐車場からだいぶ離れた場所へ降りるみたいだったけど、それでも良かった。宗司は沙亜子と共に歩けるなら、どこに辿り着こうが、それでよかった。

森の中、時折聞こえる鳥のさえずり、樹々のざわめき、宗司の好きな時間を沙亜子と共に感じられている。そんなことが宗司にとっては幸せだった。

しばらく進むと、二人の目の前に開けた空が見えた。

そこは、ちょっとした丘になっていて、丘の上からは向こうの山々の景色が広がっていた。

宗司「登ってみますか?」
沙亜子「はい」

登りは少し急な勾配だったけど、沙亜子もなんとか登れそうだったから、宗司は見守った。そして、2人で登った丘の頂上、そこから見た景色はキレイだった。遠くまで広がる山々を見ながら、沙亜子も嬉しそうにしていた。宗司は、同じように感動してくれる沙亜子のことを見て、とても嬉しい気持ちになっていた。

勾配を降りる時、先に降りた宗司は、後から降りる沙亜子に手を貸した。少しためらったけれど、コケたら申し訳ない。差し出した宗司の手を沙亜子は握ってくれた。とても柔らかい、そして優しい手だった。

沙亜子が降りて、宗司は手を離したけれど、本当は離さず、そのまま手をつないでいたかった。だけど、2人は付き合ってるわけじゃない。今日出会ったばかり。お互いに歳は重ねているけれど、宗司も初々しさは忘れていなかった。

この手をずっと握れる日は来るのだろうか。自分が恋をしているのは分かっているけれど、沙亜子はどうなんだろう?ちゃんとした収入があるわけでもない、実家に住んでいて、車もない、こんな情けない自分を好きになってくれるだろうか?いや、たとえ好きになっても、こんな自分じゃ不安を与えるだけで、付き合うなんて決断はしてもらえないんじゃないだろうか。

不安を感じながらも宗司は、「いや、今はこの瞬間を楽しむだけや」と沙亜子と2人で過ごす時間を、そこで感じる穏やかな幸せに身を任せることにした。旧参道は、まだ続く。今はまだ、この幸せを噛み締めていたい。続く〜。

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