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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で プロローグ5

ネカフェで見つけた情報によると、長浜城のある豊公園には、銭湯があるようだった。少し距離はあるが、駅も近いし、公衆電話もあるに違いないと、宗司はネカフェを後にして、公園を目指した。

しかし、銭湯は休み。とことん見放されているのだろうか。ただ、後から知った情報では、ネカフェにもシャワーがあったらしい。

お風呂はともかく、公衆電話を探す。公園内を散策していると、電話BOXを見つけた。

これで一縷の望みが叶うかも知れない。BOX内に入り、名刺に書かれた電話番号を押す。

呼び出し音だけが虚しく響いた。そりゃそうなのだ。このご時世、公衆電話からの電話に出る人はいない。

宗司は、自分の運命を悟った。

調べた情報によると、明日も一日天気は悪いようだった。明後日、天候が回復したら、この街も出よう。もう生きる望みはなくなったのだから、息絶えるまでは、自分の足で歩こう。

その夜、別のネカフェで夜を過ごし、眠りに落ちた。

トントン。

扉を叩く音に目が覚めた。「長浜警察署のモノですけど、開けてもらえますか?」お迎えが来たのだった。正直、宗司はホッとした。あぁ、誰かが探してくれていたのかと、安堵した。

やはりその日は大雨だった。

宗司を迎えに来ていたのは、妹だった。そして、警察署には、彼の息子たちがいた。

警察署に入ってしばらくしてから、妻も入ってきた。本当は最初に駆けつけて欲しかったけれど、宗司と妻の関係はすでに破綻していたのだろう。

そこから実家へと向かった。宗司はその日のことはあまり覚えていないけれど、親戚や妹の友だちまでいた。一体どれだけの人が探し回っていたのだろう。

疲れ切った宗司の体と心は、安堵したとは言え、簡単に治るものではなかった。

だけど、家に帰りたかった。見つけてくれたのなら、またそこからやり直したかった。いつまでも、実家にいたくはないと思っていた。元々、実家から出たいと願っていたから、長男であろうと関係なく、家を出たのだ。ここは自分の居場所ではないと、宗司はずっと思っている。

そう願っても、誰もそれを許してはくれなかった。

「こうなったのは、あの人のせいや」と妻を悪く言われた。みんなそう言った。親兄弟だけならいざしらず、血もつながらない親戚も、宗司の友人までもがそう言った。宗司は、妻は悪くないと思いたいのに、誰もそれを許さなかった。もう自分を責めるのはやめろと言うことだったんだろうけど、結局、自分の想いを分かってくれる人は、誰もいない。だから、すべてを捨てて逃げたかったんだと気付いた。

宗司は、嫌だとしても離婚すべきだとさとされた。やたらとそう言っていたのは、血のつながらない親戚だった。宗司からすれば、はとこの奥さん、言ってしまえば赤の他人なのに、やたらと口を挟んで来るし、謎に妻ともコンタクトを取り、間に入って来ていた。どっちの言い分も、気持ちも分かるみたいな善人ぶった行為が、二人の仲をかき乱した。

離婚は是ではない。宗司は、離婚した方が良いのかも知れないとは思っていたが、家族四人でやり直すことはできると信じていた。信じていたが、「離婚したいと聞きました。どういうことですか?」と妻からメールが届いた。

聞きました?誰から?宗司は、パニックだった。別に自分から離婚したいと言った覚えはない。今の自分を考えれば、その方が良いとは思うが、離婚をしたいわけがない。間に入ってかき乱して、なぜ勝手に話を進める。宗司は、親戚の叔母に憎しみを覚えた。

ほどなくして、妻は離婚を決意し、その旨を告げられ、その日以来、妻と顔を合わせることも、会話することもなくなった。

心が壊れた宗司の中で、もう自宅に戻れないなら、家族四人で生きていけないのなら、これからここで生きていかなければならないのなら、「妻が悪い」と思うしかない、自分を追い込んだのは妻だと、すべての責任を彼女に負わせることでしか、もう生きていけないと、悲しい決断をするしかなかった。

そうしなければ、ここでは誰も許してはくれなかった。

だけど、宗司は、今でも妻に離婚を決意させたおばを許してはいない。この先も決して許すことはないだろう。昨年一月に離婚調停を始めたのも自分だったから、離婚自体を悔やむことはない。確かに、今は伸び伸び生きてられる。ただ、夫婦の間に割って入るという行為だけが、宗司には許せなかった。当時、妻は宗司をまだ愛していたかも知れない。やり直せるようにと、色々考えていたかも知れない。その気持ちを宗司はひとつさえ知ることもなく、離婚を助長させるような行為が、憎くて仕方ない。

今の自分が自分のために生きていられること、それを思えば、やはり離婚は正しかったのかも知れないが、それは運命と受け入れた結果に過ぎない。あの当時、自分の頭で何も考えられない状態の宗司と自分を責めたであろう妻、二人にはもっと時間が必要だったはずだ。その時間を許さなかったおばの善意は、悪意の塊として、宗司の中に残っている。

こうして仕事もできるほどに元気になるまでは、数ヶ月かかった。

新しいことを始め、新しい人たちと出会い、少しずつ 少しずつ、宗司は自分のために生きられるようになった。

そして、今、自分の運命を変えるほどの出逢いが訪れている。もちろん、そんなことを宗司はまだ知る由もないが、沙亜子との出逢いは、宗司にとってはっきりと運命を感じるものだった。

アプリからLINEへとやり取りを変えても、ただただ弾むだけの会話。

初日にも関わらず、二人の会話は12時間、23時頃まで途切れることなく続いた。続く〜。

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