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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で プロローグ2

続き

宗司は、よもや?!と思い、通知の内容を確認した。それはやはり、アプリでマッチングしたという通知だった。否応でも期待も鼓動も高まる。

昨今の出会い系アプリには、マッチング機能というものがある。要するにどちらか一方が「いいね」を押しても、相手側も「いいね」を押さなければ、マッチングされずにメッセージのやり取りはできないというものだ。つまり、マッチングされるか否かだけで、その先は大きく変わる。

「キタ−−−−−!!」と実家なので声に出して叫ぶことは出来ないが、宗司は一人悶絶しながら、心の中で叫んだ。「キターーー!!」と本当は人目をはばからず叫びたいと思ったが、実家なのでやっぱりやめた。これは、青天の霹靂と言わんばかりの展開だ。

宗司はすぐに彼女へメッセージを送った。

「マッチングありがとうございます。はじめまして、そーじっていいます!
マッチングしてもらえると思ってなかったので、嬉しいです♪ボクは滋賀住みなので、距離もあるし〜とか考えたんですが、ありがとうございます!!
ayaさんは、愛知のどの辺りに住まれてるんですか?またお時間ある時にでも返信ください!!!」

そう、宗司が写真で一目惚れしたayaという女性は愛知県。宗司は滋賀県なので、岐阜ないし三重を挟んで隣接はしている。最短なら高速を利用して1時間半って感じの距離だった。

最初から宗司は、相手に車がなければ、そもそもマッチングは成立しないと考えていた。しかも、宗司は納車待ちで、今はまだ車が手元にはなかったので、そこは負い目だったが、まぁ、それを差し引いても、ダメ元だったのだから、このマッチングをとても喜んだ。

ayaから返ってきたメッセージには、本名も記されていた。

「そーじさん、いいねありがとうございます!私さーこって言います。本名の方がニックネームっぽいのです。私も距離は考えましたが、それよりも(写真から)楽しそうな雰囲気を全体にまとわれているのでとてもステキだなと思ってしまっていいねさせていただきました♪よろしくお願いいたします♪」

「さーこ。なんて可愛くて、いい響き」宗司は返信にドキドキしながら、フザけた写真を載せた自分を褒めた。「グッジョブオレ!」とか思いながら、仕事の準備を済まし、家を後にしながら、さーことのメッセージを楽しんだ。

一年と数ヶ月、いや思い返せば、もっと以前から、宗司の人生は「苦しむこと」「嘆くこと」「自分を責める」がデフォルトだった。そして、元妻と離れてからも消えることのない不安を抱えるだけの人生だった。

実家に戻ってから、自分のために生きようと必死になっていたつもりではいたけど、そんなに簡単に人は変わらない。頭のどこかで不安を感じない日などないはずがなかった。

一年と数ヶ月前の八月下旬、宗司は、突然心が壊れた。

それは、彼の弟の和幸が、ここしばらく元気もなく、悩んでそうな兄を気遣って、神戸へ旅行に行こうと誘い、弟のオモテナシで楽しい一夜を過ごし、勇気づけ、京都にて別れた後のことだった。

弟の優しさが身にしみて、気が緩んだわけではなかった。宗司は、神戸での夜も「仕事せなあかんのに」とパソコンを車に置いてきたことを後悔するほどに緊張していた。追い詰められていた。そう、旅行に行ったのは、本当にたまたまタイミングが悪かっただけだった。

神戸からの帰り道、宗司は運転中に、何の前触れもなしに泪が溢れて止まらなくなった。この時に彼自身は「あ、心が壊れた」と悟った。

原因は分かっている。納期に間に合わない仕事をなんとか納期に間に合わせるように納品したが、それはやはり付け焼き刃だった。相手方の配慮もあり、納期を伸ばす提案をされたことに心は苦しんでいた。それが気がかりで、頭の中は申し訳無さでいっぱいだった矢先のことだ。

宗司は、すでに仕事が自分のキャパを超えていたことは分かっていたのに、仕事への責任感と、期待されていることへの責任感と、家族への責任感で、それをなんとかカタチにしようとしていた。宗司のレベルで受けるには、あまりにも大きな案件だったことは、最初から自分では分かっていたが、功を焦った。

この案件を受ける以前から、彼は自分が仕事をうまく回せないことに悩んでいた。そもそも一人でできる仕事ではないレベルの案件を一人で抱えることしかできなかった。家族を食わすためには、目先のお金が欲しかったからだ。

仮に宗司が信頼できるスタッフを雇っていれば、仕事の負荷は半分以下で、速度も倍以上になっていたかも知れない。それなら、うまく会社を回せていただろう。だけど、彼は社長であり、プレイヤーだったし、さらに夫であり、父親である自分にとっては、自分一人の力で家族を食わせるためには、人に頼る前に、自分が犠牲にならなければいけない、スタッフを雇うには、余裕がなさすぎると、自分を追い込んでいた。

元妻のプレッシャーもあったが、それ以前に、ちゃんと相談をすれば、話し合っていれば、彼が自分で自分を壊すことはなかったのかも知れない。ただ、すべてのプレッシャーに自分は耐えなければならないと思い込み過ぎていた彼には、すべてを背負う以外の選択肢はなかった。

神戸に旅行に行く以前から、元妻との関係はおかしくなっていた。母と元妻との関係もその一年半ほど前から悪くなっていたし、それに合わせて、次第に宗司と元妻との関係もおかしくなり、子どもたちが夏休みにも関わらず、二週間ほど家に帰らず、車中泊で過ごしていたりもした。

それを宗司の弟が心配するのは、至極当然のことだった。そして、あの日心が壊れた。続く〜。

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