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【小説】雨上がりの空にかかる虹の下で プロローグ1

高井宗司は、暇だった。暇ゆえに不安だった。自分がこの先どういう人生を歩むのか、何も見えない。かつての自分はもっと夢を見ていた気がする。だけど、今は夢を見るには年齢が行き過ぎている気がする。39歳と言えば、幸せを掴んでいてもおかしくない年齢だ。

だからと言って、別に不幸を感じているわけでもない。一年三ヶ月前に、心が壊れ、妻子を置いて逃げた。だけど、親兄弟や親戚、友人たちの必死の捜索もあり、たった三日でみつけられ、以来ずっと実家のお世話になっている。妻に離婚を言い渡されてから離婚まで一年かかったけれど、その間にも色々と自分のことを大切にしてきたから、今は不幸ではない。

妻との離婚は、感染症の流行もあって伸びはしたものの、成立したことになんの感慨もなかった。一年前から時の経過とともに、好きだった想いは消えた。愛さえもなくなったのかも知れない。だけど、愛する子どもたちは今でも月に一度は会えている。不幸なはずはなかった。

だけど、宗司は不安だった。

やりたいことが見つからない。何をすればいいのかも分からない。Youtubeやパソコン教室など新しいことをいくつか始めたりもした。だけど、「これ」という生きがいも感じないままに、ただ時だけが過ぎていた。

刺激もない退屈な日々。不安は募るばかりだった。

そんな時、ふとアプリ内の広告が目に止まった。

「そう言や、最近こんなアプリの広告よう見るな」

その広告は、いわゆる出会系アプリだった。

暇つぶし。そんな感覚で試しにアプリをダウンロードしてみたが、恋がしたいわけでもない。年齢的にも環境的にも収入もほとんどないような自分が相手にされることはないだろうし、単純に興味本位だった。

年齢よりは断然若く見えるし、容姿が悪いわけではないのだけれど、年齢からして相対的に自信も持てない。所詮は暇つぶし、目の保養になれば良し。メッセージのやり取りができれば、多少の刺激が得られてなおよし。そんな感覚だった。

然るべしというか、案の定というか、異性の年齢は若い。同世代も売れ残り感満載の写真ばかり。期待はしていなかったけれど、夢さえもみさせてもらえないのかと、げんなりもしたが、時折見つかる美人たちは目の保養にはなった。

「どうせ暇やし」とメッセージのやり取りができるように課金もしたが、返事をもらえても、たいして会話も続かない。次第に、課金がもったいないからやっている感も増していた。遊びにも本気にもなれなかった。

何が面白くないのかも分からなかった。いや、単純に興味を持てなかっただけだろう。むしろ、同性の友だちと気兼ねなくお酒を飲み、さわぐ方が楽しかった。

「まぁ、こんなもんやろなぁ」

宗司は、その程度に考えていた。かつての妻も出会い系のような掲示板で知り合いはしたけれど、当時ほどの貪欲さもない。気持ちの面はともかく、離婚から歳月も経っていない。子どもも二人いる。今の自分に新しい恋は必要ない。今の自分が楽しいと思うことをとりあえずやり続け、そうやって生きていけばいい。

12月まで、子どもたちとは一日だけの面会だったが、12月には宿泊もでき、1月には子どもたちが実家に泊まりに来れるようにもなった。今はそれでいい。その瞬間を楽しみながら、自分の生きる道もそのうち見つかるだろう。

昨年始めた母のカフェを使って、夜にバーでもしてみようとも考えている。何が向いているのかも分からない。とりあえず、今はやれることを試してみる。トライアンドエラーで行くしかない。

そんな風に人生を考えていた頃だった。

その日、昼から仕事だった宗司は、午前中に布団の中で、暇つぶしにアプリを開いていた。そこで、ふとアプリ内で見かけた異性の写真に目を奪われた。

「え?やばい、、、」寝転んでアプリを見ていた宗司は、思わず起き上がって、写真をよく見た。

その感情は、もちろんアプリを利用し始めた1〜2ヶ月で湧き上がったこともない。かつての彼女たちにも抱いたこともない。元妻の時にも似たような衝動はあったけれど、この瞬間に芽生えた想いは、それ以上に強かった。

だけど、写真の相手は少し遠くに住んでいたこともあって、「あぁ、この距離感は、如何ともし難いな」と思いはしたが、ここはダメ元でもコンタクトするしかなかった。

このご時世である。写真の成否は正直判断しかねるのだが、宗司はその異性の写真に心を奪われた。一目惚れと言えばそうなる。出会いは一期一会だ。距離はあるとしても、簡単に会えないほどの距離でもない。ここは、とりあえずメッセージを送ってみればいい。そう考えるより先に、宗司はメッセージを打っていた。

別に期待はしていない。こんな人生だからこそ、当たったところで、すでに砕けている。傷つくほどのことでもない。きっと何も面白くない日を過ごすだけの人生は、まだしばらく続くだろう。とりあえず、昼からの仕事の準備をしようと宗司は、布団を出た。

そして、ほどなくして、宗司のiPhoneに通知が届いた。続く〜

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